3月

3月10日、卒業式。
新春の様な、冬の名残の様な、生暖かい風が吹き抜けて行く。

体育館。
壇上ではちょうど友春が卒業証書を渡されている。そして私の手の中にも丸まった卒業証書。壇上から降りる時に小雪と目が合った。保護者席にちょこんと座っている小雪は、真剣とも眠たそうともとれる顔で私を見つめていた。今は友春をあの茶緑の目で見ているのだろう '42

中学の卒業から3年。私と友春の所に小雪がきてからも3年になるな。

ー3年前ー

父も母もいない食卓にはそれでも友春と私の笑い声が溢れていた。祖父母が送ってくれた祝いの万年筆と図書カードをいじりながら、新しい高校生活の話をしていた。
「友春は何飲む?」
「ペプシ。サラダはまだ冷蔵庫?」
「うん。出して!」
前日から作っておいた料理を出し終わって、小さく乾杯して、テレビを流してくつろぐ。今日はゆっくり卒業アルバムを見て、教科書を整理して、ゆっくりお風呂にはいろうと決めていた。
「それにしてもやっぱり友春はずるいよ〜。私と一年も誕生日が違うのに一緒に卒業なんて。」
「区切りを2日と3日の間にした国を恨むんだね。ってか、いい加減そんなんで因縁つけるのやめろよ。こっちは1年損してるんだからな。」
苦笑いをしてお互い笑う。私たちはちょうど1年違いの年子なのだ。1歳も違うのに何をするにも一緒というのが幼い頃から少々癪だった。まぁ、そんなことを言ってもしょうがないのは分かってるんだけど。ちなみに、私がそう思ってても、私たちは仲のいい姉弟なのだ。
軽くお互いの愚痴を言って、ケーキをつまんでいたのは夜の10時過ぎ。毎週見ているドラマの最終回が始まっていた。

そんな時間にベルが鳴った。

「友春出て。」
「はいはい。ばあさんかな?」
私はドラマに夢中だった。でも、それを邪魔する呼び声。
「春香!来て!」
無視。
「春香!!」
無視。
「はぁーるぃーかぁー」

やれやれ。早く終わらせたくて玄関に走って行くと、男が立っていた。
「誰?」
背の高い、緑色の目が印象的な男だ。
「母さんの愛人さん」
「あぁ。」
友春は明らかに態度が硬かった。
「えーっと、どぉも。えっと何の御用でしょうか?」

面食いの母は私が中1の時に出て行った。父が亡くなって寂しかったのだと思うが、愛人ってやつを作って出て行ったのだ。母っ子だった友春はその人をずっと恨んでいた。でも私は資産家の未亡人という立場を捨てて、ただ顔の良い人の所へ行った母を、なかなかやるなと! 感心していた。私にも母の血が流れているらしいという事実は、高校生活で気付きよく一人で苦笑いしたものだ。

それにしても、顔の良い人物が外人さんだったとは・・・。

「愛香の、」
「愛香さんっ!」
「愛香さんと私の子供を育てて下さい・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

預かって下さいじゃなくて、育てて下さいですとぅ?
彼が言うには母がいなくなったそうだ。またか?。3ヶ月前から。
母と彼、ザイルさんは(本人が言うには)駆け落ち同然だったそうで頼る人がいなく、考えに考えて私たちを訪ねたそうだ。

「誰がするかよ!」
友春マジ切れ。部屋に行ってしまった。
「えっと、こっちも二人で生活が手一杯なので無理です。」
こういう時はきっぱり&はっきり断る。
「お願いです。見つけたら必ずお礼はしますから。」
普通迎えにくるじゃないの?
「とにかく、関係ないので。お引き取り下さい。」
40分も押し問答して、彼は帰っていった。

この1件のおかげで、2週間も家の中の空気、性格に言えば友春の機嫌が悪かった。仕方ないのはわかるけど、私もいい加減イライラしてて、最悪に空気が悪かったのだ。本当なら高校入学の準備は楽しいはずだったのに。

結局彼が帰ったあと、連絡はもうなかった。無かったのだけれども・・・。

ー3月30日ー
誕生日まであと数日、高校入学までもあと少し。家の空気も良くなって来たという日。

「・・・・・・・誰?」
玄関のドアを開けた先に小さい小さい女の子がいた。
茶黄色の髪、茶緑の目。
これは・・・もしかして・・・・
「おねぇちゃん?」
・・・やっぱり。。。
今度は私が大声で叫ぶ番だった。
「友春!来てーーー!」
「んー?何ー?・・・・・誰?」
「お・・にぃちゃん?」

私たちは2人とも可愛い物好きなのだ。そして、この妹らしき人物はとてつもなく可愛らしかった。

「・・仕方ないよね。」
「子供に罪はないっていうしな。」

それから、いや、その時から私たちは3人兄弟になった。

あれから3年かぁ。

「高橋 春香」
「はいっ」

新しい1年は何が待っているのだろう?。